消化器
現在日本では成人の20〜30パーセントの方が脂肪肝です。脂肪肝は肝臓の中に中性脂肪が過剰にたまる病気ですが、お酒の飲み過ぎによるアルコール性脂肪肝と過食や運動不足、肥満が原因の非アルコール性脂肪肝の二つに分類されます。
非アルコール性脂肪肝は、内臓肥満や糖尿病、脂質異常症、高血圧に合併することが多く、メタボリック症候群の肝病変と考えられ近年増加の一途をたどっています。これまでは進行しない良性疾患とされ、ほとんど放置されていましたが、約10パーセントほどが肝臓に炎症が加わり脂肪肝「炎」を発症し、肝硬変や肝臓癌にまで進行する場合があることがわかってきました。これが非アルコール性脂肪肝炎(NASH)です。10年で約10パーセントが肝硬変に至る進行性の怖い病気で、日本人の約1� �ーセント程度がNASH と考えられ、今後さらに患者数の増加が懸念されています。
脂肪肝の診断は腹部エコーで容易ですが、脂肪肝炎(NASH)との区別は症状や血液検査、画像検査ではつかず、診断確定には肝臓の組織検査が必要となります。
糖尿病薬のインスリン抵抗性改善薬や一部のビタミン剤、肝庇護薬の投与などで肝機能の改善報告はありますが、効果には限界があり確立した薬物治療法は残念ながらまだありません。最も重要かつ有効な治療は食事、運動療法による体重の改善です。
脂肪肝と診断されメタボリック症候群の合併があるならNASH の可能性があります。決して脂肪肝を侮らず、直ちに生活習慣を見直しできるだけ早く脂肪肝から脱却するよう努力することが必要です。
平成22年11月 井戸 英司
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聞きなれない言葉ですが、釣り好きの方の中には、よく知っている方もいます。
70 歳代の男性。昨日、釣ったばかりのイワシの刺身を食べてから、4〜6時間後、激しい上腹部痛を訴え、受診されました。症状より、ある疾患を疑い、胃内視鏡を行いました。すると、胃の体部に白い₃センチメートルほどのくねくね動く虫体がおり、胃の中に頭を刺入していました。さっそく鉗子で摘出しました。同時に激しかった痛みは消失しました。
虫の正体はアニサキス。イカ、サバ、イワシなどに寄生して、これを生で食べると発症することがあります。オコゼ、ヒラメにはいません。本来、イルカ、クジラの寄生虫で人間の体の中では、長く生きられませんが、胃、小腸、大腸の壁内に入り、炎症を起こします。
日本海側の冬は近海漁業が中心で生で食べるお魚においしいものが多く、アニサキスが多く、太平洋側で� ��遠洋漁業が多く、冷凍している魚が多いため、発症が少ないといわれます。
予防はイカ、サバを−20 ℃で24時間冷凍するか、加熱すれば、虫は死にます。締めサバでは虫は死にません。人体内にアニサキスが入ったからといって、必ずしも発症するわけではなく、運が悪ければ、発症します。体調が悪いときは生食を避けてください。
治療は内視鏡で虫体を摘出するか、保存的に経過をみます(虫は₃日生きます)。手術することもありますので、病院を受診したら、食べたものをお話しください。しかし、生のプリプリのイカ、アジ、サバはおいしいですよね。悔しいけれど。
平成22年10月 村上 篤信
人は一定の期間に沿ってのためにloratabに滞在することができます
皆さんは、急にお腹が痛くなって救急病院や当番医を受診されたことはありますか。夜間や仕事中は「これくらいの痛みなら我慢しよう」とか「何日か様子みて治らなければ病院にいこう」と考える方は少なくないと思います。ただ単に、腹部といっても、診断するときに₉等分に分けて考えるほど病気は多岐に及び、上腹部に至っては狭心症や心筋梗塞などの胸部疾患も隠れていることがあります。
腹痛を訴えている患者さまを診察するときには、まず、痛みの部位(移動部位・放散部位も)、質や程度、嘔吐や便秘・下痢、排尿異常など関連症状の有無をチェックします。次に、急激なものか徐々に発症したか、持続的か間欠的か、どんなときに痛みを感じるか、増悪しているか、変わらないかといった時間的経過をみます� �また、以前にも同様のエピソードがあったか、誘因としてアルコール、高脂肪食、サバなどの海魚生食の摂取、服薬中の薬剤(消炎鎮痛剤やステロイドホルモンなど)、手術や病気の既往、歩行や体位による変化があったかをきいていきます。女性の場合には妊娠の可能性、婦人科疾患なども考えておかれるとよいでしょう。
緊急を要する病気として、胃・十二指腸潰瘍穿孔などの消化管穿孔、腹部大動脈瘤や子宮外妊娠などの臓器破裂、腹膜炎を伴うほどの重症の急性虫垂炎、急性胆嚢炎や膵炎、胆石発作、急激な血行障害が原因の腸間膜動脈閉塞症、腸捻転、腸閉塞、卵巣嚢腫茎捻転などがあげられます。
緊急を要する腹痛においては
①突発的で激烈か(突然発症したか、うずくまるなどの体位か、冷や汗を伴っている か)
②痛みが増悪しているか
③今までに経験したことがない痛みかがみるポイントとなります。
しかし、基本的には、気になる症状が少しでもあるのなら、無理せず早めに医療機関を受診するようにしましょう。
平成22年6月 越智 伸子
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患者さん 「便通が悪いんです」。 私 「 大腸内視鏡検査をしてみませんか」。「『大腸がん検診』で異常なかったのです が検査をしないといけませんか」
私の診察室で、しばしばこういった会話のやりとりが行われます。 「大腸がん検診」 で異常なければ本当に大腸がんの心配はないのでしょうか。 ここで気を付けなければいけないのは、一般に行われている 「大腸がん検診」 とは、ただ単に便に出血の反応があるかないかを調べるだけの検査で、がんの有無が分かる検査ではないということです。便に出血の反応がない大腸がんはたくさんありますので(私の病院では大腸がんの人の約35パーセントは便に出血の反応がありませんでした)、 「大腸がん検診」 で異常なしとされても大腸がんであることはしばしばあります。また、便に出血の反応があっても大腸がんとは限りません。私の病院で 「大腸がん検診」 で異常ありとされた方の大腸内視鏡検査結果は、最も多いのは痔(48.2パーセント)で、大腸がんの割合は1.5パーセントでした。そのほか、良性ポリープ(13.1パーセント)、潰瘍性大腸炎(0.5パーセント)、直腸炎(0.5パーセント)などが見つかっています。
このように 「大腸がん検診」 で異常なしであっても大腸がんである可能性はありますし、異常ありとされてもがんでないことの方が多いのです。こういった実情をよく理解されて、 「大腸がん検診」 という言葉の意味を誤解しないようご注意ください。
なお、私の病院で大腸がんが発見された方の大腸内視鏡検査をするきっかけとなった症状は、便潜血陽性(21.7パーセント)、便に血がついていた(17.0パーセント)、腹痛(14.0パーセント)、なんとなくお腹の調子が悪い(15.5パーセント)、慢性下痢(14.0パーセント)、便が細い(5.4パーセント)でした。この結果を参考にされて 「大腸がん検診」 で異常ありとされた方はもちろん、こういった症状のある方は、勇気を出して大腸内視鏡検査を受けましょう。そして大きな安心を得ましょう。
平成22年4月 平林 靖士
最近、テレビや雑誌などでもよく目にするのでご存知の方も多いと思いますが、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)は胃の粘膜に生息している細菌の一種です。らせん状(ヘリコ)の細菌(バクター)で、胃の出口付近の幽門(ピロリ)に好んで住みつくため、この名が付けられました。大きさは約3μm(マイクロメーター)で、4~7本の鞭毛を持ち、この鞭毛により胃粘膜層に潜り込み、胃にいろいろな障害を与えるとされています。感染経路ははっきりとしていませんが、人から人への経口感染が大部分であろうと考えられています。
ピロリ菌に感染すると、さまざまなメカニズムにより慢性胃炎を引き起こします。消化性潰瘍に関しては、この菌による発生のしくみはいまだ完全には解明されていません。しかし、胃・十二指腸潰瘍の患者さんの90パーセント以上がピロリ菌に感染しており、除菌療法により著明に再発が抑制され� �いることから、潰瘍の発症にピロリ菌が大きく関与していることが明らかになっています。さらに最近の研究では、ピロリ菌は胃癌の発生にも大きな原因の一つとなっていることが分かってきています。
ピロリ菌の検査方法は、 ①内視鏡で胃粘膜組織を採取する。 ②呼気(吐く息)中の二酸化炭素の量を測定する。 ③血液検査・・・などがあります。 ピロリ菌に感染した全ての人が潰瘍を発症するというわけではないですが、胃痛や胃部不快感などの症状をお持ちの方、また以前、胃潰瘍や十二指腸潰瘍にかかったことのある方は、一度医師にご相談の上、検査をおすすめします。
平成21年月 木原 晃
大腸のどこかから出血すると、便の中に血液が混入します。出血が多い場合には、赤い血便すなわち肉眼的血便となります。しかし出血が少量の場合には肉眼では見えません。便潜血検査で、がんやポリープからの出血の有無を診断します。この検査は大腸がん検診の一次検査や下部消化管疾患のスクリーニング法として用いられています。
便の採取法は、便の表面をこすり取る方法や、スティック状の小さな棒を便に挿して取る方法があり、1日1回ずつ2日間続けて採取する「2日法」が主に用いられています。
検査が陽性の場合は、大腸に何らかの病気がある可能性がありますので、すみやかに精密検査を受けてください。内視鏡検査が一番正確ですが、何らかの理由により内視鏡検査が受けられない場合にはお尻か らバリウムを入れる注腸X線検査という方法もあります。
便潜血検査はポリープやがんの場合は、それがある程度大きくないと陽性になりません。陽性の場合でも、必ずしも大腸がんとは限りません。精密検査の結果、大腸がんと診断される人は0.1~3パーセントで、そのうち約半数が早期がんです。早期がんは、ほぼ100パーセント治りますので便潜血検査が陽性にでたからといって不安に思うことなく精密検査をぜひ受けてください。
生活習慣の変化や食事の欧米化によって、近年大腸がんの罹患率は急激に増加しています。早期発見、早期治療のため定期的に検診を受けましょう。
平成21年 3月 竹内浩紀
内痔核は俗にいぼじと呼ばれる病気です。肛門の内側にある静脈叢と呼ばれる、小さな血管の集まりがはれてくるために発生します。
内痔核の発生原因は生活習慣が密接に関連しています。例えば、1.冷え、2.長時間の同姿勢、3.無理ないきみや5分を超える長い排便時間、4.飲酒、刺激物の過剰摂取、5.便秘や下痢のくり返し、などがあります。これらを長年続けていると、しなやかだった静脈叢が朽ちたゴム風船のようになり、内痔核が発生します。内痔核はやがて肛門の外側に出てくるようになります。これが俗に脱肛と呼ばれる状態です。
脱肛の段階になると坐薬や軟膏での改善が望めないため、以前であれば手術を行う必要がありました。 平成17年に認可されたALTA注射療法はこの段階の内痔核に非常に効 果があり、日帰り治療が可能です。ただし、ALTA注射療法には以下の注意点があります。1.注射手技が複雑であるため、講習で技術修得した医師しか行うことができません。2.肝、腎疾患がある場合にはこの治療を受けられないこともあります。3.外痔核には効果がありません。4.合併症の発生率は少ないのですが、手術と同等の注意が必要です。
ALTA注射療法を必要とする脱肛は内痔核全体の1割以下です。9割の内痔核が生活習慣の改善で、上手につき合うことができます。肛門科、外科は受診しづらいイメージがあると思いますが、Eメールでの相談やレディース外来などの受診しやすい環境への取り組みに努めています。まずは専門医と良く相談し、ご自分にあった治療法を見つけることが大切です。
平成19年10月 大西五郎
暖冬からそのまま春がやってきました。この冬、インフルエンザに代わって、感染性胃腸炎にかかった方が多く受診されました。突然に始まる嘔吐、下痢、腹痛などの症状で苦しい思いをされた方が多かったと思います。嘔吐や下痢で消化液が失われると、水分とともに電解質も失われて脱水症が進行し、急激に全身状態が悪化します。乳幼児や高齢者では生命の危機となることが少なくありません。
感染性胃腸炎の原因はノロウイルスだけではありません。ロタウイルスやエンテロウイルスも検出されます。ウイルス以外にもカンピロバクターや腸管病原性大腸菌そのほか多くの病原体があります。これらの病原体は診察室で患者さんを診察しただけではわかりません。症状や診察所見、直近に食べた食品、周辺地域での流行� �況などを参考に治療を開始すると同時に吐物や便などを検査室で検査して初めて決定できるのです。この間に一日ないし数日を要します。
「ノロウイルスによる感染性胃腸炎で…」と最初に病原体の名前を冠した表現で報道されることが多かったので、最初の診察時に病原体の名前を明らかにできないと、「ノロウイルスでしょうか」と不安な表情を見せられる方が少なくありませんでした。でも、まずは治療を受けられることをお勧めします。早く受診し、経口補液や点滴などで脱水を解決するための対応をすることが大切です。
平成19年4月 小松紀子
ゴールデンウイークも過ぎはや6月。草引きに精を出すうちに口内に酸っぱい液が上がって来た方やゴールデンウイークの暴飲暴食、ゴロ寝で胸やけがした方、お耳を拝借。それは逆流性食道炎の症状かもしれません。
食道と胃のつなぎ目にある胃液の逆流を防ぐ機能が果たせなくなると、食道内に胃液が逆流して食道が荒れ、胸やけが起こります。この状態が逆流性食道炎です。症状には胸やけ・つかえ感・飲み込みにくさ・口内の酸味や苦みのほか、消化器以外の病気の症状と区別しにくい胸痛(循環器)・のどのイガイガ感(耳鼻科)・しつこい咳(呼吸器)などもあります。治療は胃液の逆流や分泌をおさえる薬物療法が主体ですが、手術によって逆流を防ぐ方法もあります。
日常生活での注意点は
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